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神様のパズル

 機本伸司著、ハルキ文庫。第三回小松左京賞受賞作。
 まず結論から言うと、久々に熱中して読めた作品。
 小松左京賞受賞作品という事からも分かるように、いわゆるSFである。「いわゆる」としたのは、一般的にイメージされるSFとは随分と毛色が違っており、基本的なストーリーコンセプトとしてはSFであるが、その実体は学園青春モノといった方が近い。
 SFとしてのテーマは「宇宙は作れるか」。しかし作品のテーマは「自分探しの思索」とでもいったところか。今時の十代が悩んでいるような「自分とは何か」という問いに「宇宙とは何か」という物理学の方面からアプローチをかけていく。
「宇宙とは何か」というテーマを前面に押し出せば、どうしても難解な作品にならざるを得ないと思われるが、この作品は学園モノの部分を前面に押し出しているために、それほど難解なものにはなっていない。学園モノとしてややコミカルに仕上がっている部分も大きいだろうし、主人公が優柔不断ではっきりしないヤツで、ありがちな片思いに悩んでいるという何だか共感できる部分も多い。加えて何故か田植えや稲刈りなど、関連性が皆無としか思えないような小道具も巧く組み込まれていて、物理の難しさをストレートに受け止めさせないような配慮がなされている。構成の巧さなのだろう。
 ただ、物理学の部分をしっかりと考えてみると、実は結構難しいことを言っていたりする。宇宙についての考察をしているのだから、当たり前といえば当たり前なのだろうけれど、そういった部分をおざなりにしないで、しっかりと現実の理論を踏襲して、その上で架空の理論を展開しているのだ。架空部分には読んで考えてみてもピンとこない説明もあるにはあった。それでもあまりに荒唐無稽というものではなく、そういうこともあるかもしれない、と思わせる内容なのである。
 小松左京賞の選考においては、絶賛に近い選評を得ている。SFという側面からのみの評価だと作品のインパクトというか、ネタのまとめ方には少々不満は残りそうだとも思うが、そんな多少の消化不良を補ってなお余りある仕上がだ。やはりキャラクターがしっかり動いてストーリーを引っ張っていっている、その部分が大きいのだろう。
 ちなみに書評を書いてみようかとも思ったが、巻末の解説に受賞時の選評が載っていて、それがすごく分かりやすく且つ書きたいことを簡潔に書いていたのでやっぱり書かないことに。取り敢えず、この作品はイチ押しなので興味のある方は是非ご一読を。
by clhaclha | 2006-11-19 23:19 | 読書感想・書評
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