カテゴリ:読書感想・書評( 10 )

『晴れときどき、サバンナ 私のアフリカ一人歩き』読了

滝田明日香著、幻冬舎文庫刊。
ケニアで獣医をしている日本人女性のエッセイ。
この本が書かれたのは、ケニア大学でこれから獣医を目指そうとしていた2000年。
当時、どうしてアフリカで獣医を目指そうと思ったのか、どのようにしてナイロビ大学入学に至ったのかが、ケニアの野生動物マネージメント学校への留学経験から始まるアフリカ放浪の旅日記として、軽快な文章で綴られている。
時には深刻な苦境に陥ることもあるが、決して愚痴だけで終わらず(愚痴もあるが)、常に前向きに進んでいこうとする著者の姿勢には、思わず応援したいという気持ちが沸いてくる。
山あり谷ありのアフリカ放浪記だが、それでもこの人はアフリカが好きなんだな、と思わずにはいられない。
そらくらい「アフリカ最高!」という気持ちがあふれている作品。

文章は口語で非常に軽快、専門用語も少なく引っかかりなく読める内容。
エッセイ初心者からコアな読書家まで、幅広く勧めたい作品である。
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by clhaclha | 2007-03-10 06:10 | 読書感想・書評

『オイディプス症候群』読了

笠井潔著、光文社カッパ・ノベルス刊。
2003年度このミス10位作品。
まず言いたいことは、長すぎ。
新書サイズで厚さが四センチくらいあって、ページ数が七〇〇を越える。
昨年の十二月半ばから読み始めて、読み終わったのが今年の二月初旬。
まあ、長いのは別に良いのだが、これを一冊で出す必要があるのかどうか、甚だ疑問である。
京極夏彦氏のヒット以来、こういったむやみに分厚い本が多く出回るようになったのは、正直な話、何とかしてもらいたいという気持ちである。
普段の読書場所が電車内なので、立って読む時は非常に読みづらい。
まあ、内容に関係ない愚痴はこの程度にして、そろそろ書評に。

読んで初めて知ったのだが、連作ミステリーの最新作である。
当初、知らずに読んでいて、随分と具体的な伏線が多いなと思ったのだが、途中で連作であることに気付いた。
まあ、一話完結型の作品なので、これだけ読んでも内容が分からないということはない。
さて、この作品の特徴を一言で言い表せば、「哲学ミステリー」とでもなるのだろうか。
主人公が哲学者で、周辺の登場人物も哲学者や哲学の知識を持った人物で構成されている。
会話や謎解きも半分ほどは哲学的な内容で行われ、知識がなくても分からないことはないが、無論あった方が楽しめるはずである。
かくいう私自身もそれほど哲学に詳しくはないので、内容の完全把握はできなかったものの、ストーリーはなかなか楽しめた。
ただ、哲学、民俗学、歴史学系の会話や説明が非常に長いので、そういったものを受け付けない人には読めない作品。
作品としての出来はかなりのものだと思うので、このミス10位止まりという原因は、この辺りにありそうだ。
ちなみに主人公が論理学的な推論で事件の謎を解いていくのだが、他人の推理を物証に乏しい推論と否定しておきながら、自分の言っていることも同じくらい物証に乏しいのではないかと思ってしまった箇所があり、この辺りをもう少しわかりやすくすれば、またちょっと違った評価になっていたかもしれない。

とりあえず、興味がある人は読んで損のない作品である。
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by clhaclha | 2007-02-12 21:53 | 読書感想・書評

『新ロードス島戦記』読了、そしてロードス島シリーズ完結

水野良著、角川スニーカー文庫刊。
今更説明の必要もないと思うが、シリーズ開始は昭和六十三年に刊行された『ロードス島戦記 灰色の魔女』からで、その後『ロードス島伝説』シリーズ、『新ロードス島戦記』シリーズと続いてきた、ライトノベルの最初期の名作である。
最終巻の後書きにもあるが、シリーズ第一作の「灰色の魔女」が世に出てから、かれこれ二十年にもなる。
そういわれてみれば確かにその通りで、友人に薦められて本屋で探していたのが中学一年の時だったからなるほど、二十年ほど前の話である。
思い返せば、この作品からライトノベルを読み始めたのだ。

冒頭にも書いたように、ロードス島シリーズというのは『いわゆるライトノベル』というジャンルを確立させた作品の一つである。
当時はまだライトノベルという言葉はなく、それぞれの作品がファンタジーであり、SFであった時代だ。
現代ではライトノベルといえば一大勢力となっているが、当時と今とではその内容は大きく乖離している。
これは個人的な見解だが、私は早期のライトノベルを『本来的ライトノベル』、現代のライトノベルを『現代的ライトノベル』と呼んで区別している。
両者の違いを簡単にいうと、前者がストーリー重視で、創り上げた世界の中でキャラクターを動かすものであるのに対して、後者はキャラクター重視で、キャラクターに付随して世界を作り出す、といったところだろうか。
尤も、前者がキャラクターをおざなりにしているとか、ステレオタイプのキャラクターしかいないのかというと、そんなことは決してない。
ロードス島シリーズのキャラクターは十分に個性的だし、更にいえば『スレイヤーズ』シリーズや『魔術士オーフェンはぐれ旅』シリーズなどは、むしろ強烈な個性を持ったキャラクターが多く登場する。
逆に後者についてはどうなのかというと、実は『現代的ライトノベル』についてはあまり数を読んでいないので、はっきりとしたことは言えない。
ただ、『涼宮ハルヒ』シリーズの成功などを見るに、決して世界設定がおざなりにされているわけではないのだろうと思う。
世界観がおざなりであれば、いくら何でもここまでは成功すまい、というのがその根拠ではあるが、何にせよ想像の域は出ない。
いずれ『涼宮ハルヒ』シリーズは読まねばなるまい。
ともあれ、こういったキャラクターから世界が出来上がる形式のものが『現代的ライトノベル』で、キャラクターを最前面に持ってきた結果、『萌え』という価値観が出来上がったのである。
ちなみに『本来的ライトノベル』作品であっても、「萌えに走っているではないか」という意見もあるかもしれないが、そういう印象を植え付けたのはアニメ作品であって、原作の小説では根本が「世界か、キャラクターか」という違いははっきりしている。
ただし、スレイヤーズ短編集などは構成から明らかに『現代的ライトノベル』と言えるから、古くからある作品がすべて『本来的ライトノベル』であるというわけではない。

さて、話を戻そう。
この『本来的ライトノベル』の大作であるロードス島シリーズが遂に完結である。
これよりも後発のスレイヤーズやオーフェンシリーズが既に何年も前に完結していることから考えても、随分と息の長い作品だったといえる。
もっとも、スレイヤーズ15巻、オーフェン20巻と比較して、ロードス島シリーズは本編だけでも20巻であるから、単純に前二者に比して長大であった、というわけでもなさそうではある。
まあ、その辺りは個々人の執筆ペースの問題であるから、どうこう言っても仕方のないことである。

いずれにせよ、ライトノベル界を代表する作品がまた一つ、完結した。
最後になったが、作者の水野良氏には「お疲れさまでした」の言葉を贈ると共に、次回作に期待したい。
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by clhaclha | 2006-12-10 23:26 | 読書感想・書評

『箱の中の天国と地獄』読了

矢野龍王著、講談社NOVELS刊

施設と呼ばれる建物の中に閉じこめられた主人公達が、制限時間内に最上階の25階まで進まなければならないデスゲームに参加させられる。
各階には二つの箱が置かれてあり、どちらか一つでも開ければ上階への扉が開かれるのだが、箱の中には爆弾が仕込まれていることも……。
最初は六人で始まったこのゲームだが、階が進むにつれ一人、二人と脱落していく……、といった設定。

バトルロワイヤルを彷彿とさせる設定ではあるが、ミステリー調である(というかミステリーと銘打ってあるのだが)要素から、むしろクリムゾンの迷宮に雰囲気は近い。
いずれにせよ、殺し合いゲームの小説である。
さて、文体に関してだが、この手のジャンルの例に漏れず、かなりシンプルな文章で書かれている。
余計な修辞や描写をなくして、主人公の視点から見た状況と感情を直接的に表している。
文章力云々という問題もあるが、この分野ではこういった文体の方が得てして成功するものだ。
やはりスピード感と臨場感を出すには、少々拙いくらいの文章の方が良いらしい。
バトルロワイヤルを読んだ時にも感じたことである。
殺し合いゲームを題材にして文章がしっかり書けているのは、前述のクリムゾンの迷宮を書いた貴志祐介氏である。
ただ、貴志祐介氏の場合はスピード感・臨場感ではなく、状況分析からホラーの演出に持ち込むため、前二者とは根本的にスタイルが異なる。
まあ、シンプルであるが故にどんどんとページをめくれるのも事実で、読者を引き込む力はなかなかに大したものだと思った。
勢いで読める作品である。

さて、ここで作中で疑問に思った点を挙げたいが、未読の人にもネタバレにならないようにしているので読んでも問題はない。
尤も意味不明だろうけれど。
取り敢えず最大の疑問は、ストローの持ち主がオリジナルだとすると、表紙イラストを見る限り、入り込むことは無理なように思う。
そもそも、動機が本人の言っている事では弱いというか、動機として成り立つのかどうか、疑問である。
2ちゃんねる他、色々なサイトを回って解説を読んでみたのだが、上述の通りで間違いなさそうではあるのだが……。
こういった点と、一部(というか大半)の人物描写や張るだけ張った伏線の回収し忘れ(?)などをみるに、まだまだ設定や構成に難があることは否定しようがない。
この点、バトルロワイヤルはハシリであったにも関わらず、言いたいことは言い切っていたし、伏線も結構巧く使っていたように記憶している。
まあ取り敢えず、この辺りを改善していけばずっと良い作品となるのは間違いないだろう。
殺し合いという題材はともかくとして、ネットでの評価が否定から肯定まで幅広く別れている一因はまさにこれなのだ。
次回作を読むかどうかは分からないが、この点が改善されれば自ずと評価は上がるだろう。

……と、うだうだ書いてみたが、取り敢えず読んで損はない作品。
殺し合いにアレルギーのない人は是非、ご一読を。
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by clhaclha | 2006-12-04 23:59 | 読書感想・書評

神様のパズル

 機本伸司著、ハルキ文庫。第三回小松左京賞受賞作。
 まず結論から言うと、久々に熱中して読めた作品。
 小松左京賞受賞作品という事からも分かるように、いわゆるSFである。「いわゆる」としたのは、一般的にイメージされるSFとは随分と毛色が違っており、基本的なストーリーコンセプトとしてはSFであるが、その実体は学園青春モノといった方が近い。
 SFとしてのテーマは「宇宙は作れるか」。しかし作品のテーマは「自分探しの思索」とでもいったところか。今時の十代が悩んでいるような「自分とは何か」という問いに「宇宙とは何か」という物理学の方面からアプローチをかけていく。
「宇宙とは何か」というテーマを前面に押し出せば、どうしても難解な作品にならざるを得ないと思われるが、この作品は学園モノの部分を前面に押し出しているために、それほど難解なものにはなっていない。学園モノとしてややコミカルに仕上がっている部分も大きいだろうし、主人公が優柔不断ではっきりしないヤツで、ありがちな片思いに悩んでいるという何だか共感できる部分も多い。加えて何故か田植えや稲刈りなど、関連性が皆無としか思えないような小道具も巧く組み込まれていて、物理の難しさをストレートに受け止めさせないような配慮がなされている。構成の巧さなのだろう。
 ただ、物理学の部分をしっかりと考えてみると、実は結構難しいことを言っていたりする。宇宙についての考察をしているのだから、当たり前といえば当たり前なのだろうけれど、そういった部分をおざなりにしないで、しっかりと現実の理論を踏襲して、その上で架空の理論を展開しているのだ。架空部分には読んで考えてみてもピンとこない説明もあるにはあった。それでもあまりに荒唐無稽というものではなく、そういうこともあるかもしれない、と思わせる内容なのである。
 小松左京賞の選考においては、絶賛に近い選評を得ている。SFという側面からのみの評価だと作品のインパクトというか、ネタのまとめ方には少々不満は残りそうだとも思うが、そんな多少の消化不良を補ってなお余りある仕上がだ。やはりキャラクターがしっかり動いてストーリーを引っ張っていっている、その部分が大きいのだろう。
 ちなみに書評を書いてみようかとも思ったが、巻末の解説に受賞時の選評が載っていて、それがすごく分かりやすく且つ書きたいことを簡潔に書いていたのでやっぱり書かないことに。取り敢えず、この作品はイチ押しなので興味のある方は是非ご一読を。
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by clhaclha | 2006-11-19 23:19 | 読書感想・書評

『月光とアムネジア』読了

牧野修著、ハヤカワ文庫刊。

レーテと呼ばれる三時間毎に記憶がリセットされる空間の中で、暗殺者の捕縛という任務を帯びた主人公漆他山が、数人の仲間達と共に標的の暗殺者を追っていく。
レーテの中には隣国の軍隊やその空間内でのみ見られる凶悪な怪物などがいて、また仲間もそれぞれに個人的な事情を持っていて、そういった物事が複雑に絡みあうなか、徐々に暗殺者に近付いていく、といった内容。

著者の牧野修の作品で過去に読んだことがあるのは「王の眠る丘」と「屍の王」の二作品のみだが、いずれも良書。
今作も期待通り、久々に熱中して読み進めた作品である。

アガダ中原県やケモン帆県立軍(県≒国)、愚空間(レーテ)、また愚空間内で記憶をリセットされることによって生じる認知障害のレーテ性認知障害症候群など、非常に独特且つ詳細な世界設定で、読み始めから読者を引き込む力はある。
特にレーテ内で三時間毎に直前の三時間分の記憶を失ってしまうという設定はなかなかに斬新で、暗殺者捜索というストーリーと相俟って、作品にミステリー調のアクセントをつけている。
個人的にはこの設定ならば、もっとミステリー色を強くしても面白そうだとは思ったのだが、作者が目指しているのはもっとドロドロとしたダークなもので、これはこれで設定を生かした仕上がりだ。
ただ、話のまとめ方としてエンディングはちょっと安易だったのではないかな、と思わないでもない(未読の方もいるので、詳細については触れない)。
これだけ個性的な世界設定の作品で、結論があまりにも一般的であるような気がする。
奇妙にずれた世界なのだから、奇妙な結末でも良いんじゃないか、と。
この点が少々惜しいが、総体としては良い出来である。
ちなみにタイトルにある「アムネジア(amnesia)」は健忘とか記憶喪失の意味。
何だか変わったタイトルだが、読み進めていくうちに意味が分かってくる。
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by clhaclha | 2006-09-17 02:38 | 読書感想・書評

『蛇にピアス』読了

金原ひとみ著、集英社文庫刊、第130回芥川賞受賞作。
三年前に綿矢りさ氏の『蹴りたい背中』とダブル受賞して話題になった作品。
個人的には『蹴りたい背中』を読みたかったのだが、そちらはまだ文庫化されていないようで、たまたま文庫化されているのが目に付いた本作を衝動買いしたもの。

例によって、内容についてはあまり言及しない。
読み始めて最初に感じたのは、村上龍を彷彿とさせる雰囲気を持った作品だということ。
そう思って読み終えると、巻末の解説が同氏だったというオチがあった。
どうやら村上龍推薦作らしい。
感想としては「よく分からんな」というのが正直なところ。
解説で村上氏がポイントとして挙げている二点もそうだが、それ以上に全体的に理解しがたい内容だと思った。
理由としてはおそらく、普段の自分の生活や価値観からあまりにも懸け離れているからだろう。
少なくとも作中の登場人物のような知人は一人も居ないし、過去に付き合いがあったということもない。
以前、バイトで一日だけ一緒に働いたことのあるパンク系の人と話したことはあるが、中身は意外とありきたり(といっては失礼だが)な人物だったので、結局そういうふうに染まった人物との接点はない。
かなり強引に喩えると、初めてサイバーパンクに触れた時のような感触だろうか。
なにか「すごい」という感じはするのだが、どこがすごいのかはっきりと表現できない、そんな作品である。
選評には「作者と登場人物の共生」と表現されていたが、ルイ(主人公)の視点で、その時のルイが感じていること、思っていることをルイが持っている言葉で綴っている、というような解釈で良いと思う。
そういった直感的に理解できない感性によって書かれているわけだから、やはりこれは直感的に理解できない作品となる。
この作品を否定するつもりは毛頭ないが、自分には専門外だなというのが感想だ。

結局、第一印象の通り、自分には合わない作品であったことを確認できたのが、収穫といえば収穫か。
まだ「目」は衰えていないらしい。
さて、もう一つの受賞作である『蹴りたい背中』が文庫化されるのはいつのことやら。
こちらは読んでみたいと思った作品であるから、ちょっと期待している。
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by clhaclha | 2006-07-17 06:32 | 読書感想・書評

『エンジェル・ハウリング』読了

秋田禎信著、富士見ファンタジア文庫、シリーズ全十冊。

ここを見ている人は大半が知っていると思うが、第三回ファンタジア長編小説大賞にて『ひとつ火の粉の雪の中』で準入選を受賞してデビューしたライトノベル作家である。
上述の受賞作は随分と重い作品であったのだが、独特な雰囲気はしっかりと表現されていて、そこが評価されての受賞となった。
初シリーズの『魔術師オーフェンはぐれ旅』シリーズは一転、随分と(ブラック)ユーモアに溢れた作品ではあったが、しかし要所要所のシリアスな部分では『ひとつ~』の持つ独特な雰囲気を、更にニヒリズムでもブレンドしたようなものに進化させた作品になっている。
そして今回、『エンジェル・ハウリング』シリーズではそこから更に発展させて、且つシリアスさを増したものへと仕上がった。
一口に言えば『カタい』作品で、昨今のライトノベルの流れに逆流する方向性を持っているのだが、逆に彼が今をときめく『萌え系』の作品を書いたとしても、きっとそれほどの人気は出ないはずだ。
というのも、秋田禎信という作家が最もらしさを発揮するのが、カタくて重いテーマあるいは世界だからである。
『オーフェンシ』リーズの地人や『エンジェル・ハウリング』シリーズの人精霊のようなアクセントを加えた『カタい』あるいは『重い』雰囲気で書かれる作品こそが、秋田禎信という作家の描く世界なのである。

まあそんなわけで、もう一昨年くらいに全巻出揃っていたものを一気読み。
前評判など特に調べなかったので、まったく情報のない状態で全巻通読した。
で、いまもこのシリーズの人気などは調べてないのだが、個人的な予想ではオーフェンシリーズほどの人気は出ていないはず。
理由は前述の通り、時代の流れに逆行しているから。
そしてこれも上で述べているのだが、時代に流されて萌えてもダメ、人気は出ない。
先頃完結した『シャンク』シリーズがこれに当たると思う(まだ読み終えてない)が、これはますます人気が出ないだろう。
自分らしさを捨てて流行り廃りで書かれた作品では、当然のことながら面白いと思わせる仕上がりにはならない。
得意な世界観が逆方向に向いている秋田禎信という作家においては、特にだ。

というわけで、これからも自分らしさを第一に頑張ってもらいたい作家である。
いずれ世間の嗜好は変わってくるのだから、そのうち作風が評価される時が必ず来る。
それまでどんどんと筆を滑らかにしてもらいたいものである。

ちょっと話は変わると思うが、次回作の雰囲気予想。
『エンジェル・ハウリング』調からやや『オーフェン』調にシフトして、もっとドタバタが増えた作品になりそう。
ストーリー的にはもっと冒険モノっぽい感じになると見た。

さてこの予想、どれくらい当たるか(あるいは外れるか)、結果は上梓されてからのお楽しみ。
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by clhaclha | 2006-05-26 00:54 | 読書感想・書評

〈骨牌使い〉の鏡

五代ゆう氏の名作がようやく文庫に落ちていた。
随分長かったなと思い、調べてみると、単行本が出たのがおよそ五年前。
当然、それを待ちきれずにハードカバーを買っているのがここに一人。
まあ、それは良いとして、やはり随分長かったな、というのが最初の印象。
待ち遠しかったというよりは、むしろなぜ今、という感が拭いきれない。
何か、角川の戦略でもあるのだろうか。
もっとも、名作であるという点は否定しようがないので、文庫化自体には大賛成である。

そういえば、今を遡ること五年前。
たしかこれの書評を書くとか何とか言っていたような気がしないでもない。
というか、言っていたはずだ。
……ごめんなさい、もう書評を書けるほど内容を憶えていません。
だったら読み返せという声が聞こえてきそうだが、そんなことを口走ろうものなら確実に自分の首を絞めることが分かり切っているので、もはや何も言うまい。

それよりも、エッセイの練習をば……。
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by clhaclha | 2006-04-11 00:17 | 読書感想・書評

「ダ・ヴィンチ・コード」読了

ダン・ブラウン著 越前敏弥訳 角川文庫

日本語版が出てから、文庫になるのをずっと待ち続けていた作品。
世界の何カ国かで翻訳されていて、日本でも話題性は申し分無しという作品だったので、文庫に落ちるまでの一年半は随分と長く感じていた。
で、文庫版。
ご存じの通り、上中下の三部構成。
ハードカバーは上下の二部構成(原書の方はそれこそ知らない)だったけれども、内容を読んだ限りではどうやら分け方に意味はないらしい。
ちょっと厚めにすれば、二冊で十分収まる文量だと思った。
さて、未読の人がここを見ているといけないので、ストーリーの詳細は省略して感想を。

まず感じたのが、やはり欧米の作品だなということ。
キリスト教の知識が必須で、「……当然誰でも知っている……」と書かれている部分が、一般の日本人ならまず知らない事柄であること。
日本人の聖書の知識なんて、アダムとイブの話とか、ノアの箱船とか、ソドムとゴモラ、カインとアベル、モーセの出エジプト記、パンドラの箱とか。
せいぜいがこんなところで、ここに挙げたものですら、おそらく詳細は知らない。
かくいう自分も、話の筋をところどころ知っているくらい。

次に、英語で表記されていなければ成り立たないトリック。
似たようなトリックが、ドイルのホームズシリーズ「まだらの紐」でも使われていて、わざわざ不自然な表記になるので、どこに注目すればいいのかが一目瞭然。
英語で書かれた作品なのだから、仕方がないといえば仕方がないのだが。

まあ、それでも全体としてはなかなかに面白い作品で、上記の二点を除けば秀逸と言っていい出来。
解けてから「ああ、なるほど」と納得できるトリックが多く、またキーワードやヒントが複雑に絡み合っていて、しかもそれが効果的に使われている点は、非常に巧妙。
巧いと思わせる作りになっている。

そして、訳が上手かった。
これ、非常に重要だと思う。
海外の作品は、やはり普通は訳された物を読むのだけれど、この訳の出来によって、作品そのものの出来が大きく左右される。
まあ、当然のことだが。
で、この作品の訳は合格点。
というよりも、かなり上手いと思う。
読んでいて、訳特有の違和感がなかった。

ということで、まとめとして、
・ストーリーは(最初に挙げた二点を気にしない人にとっては)十分楽しめる作り
・トリックは秀逸
・訳は上手い
上記三点の理由から、期待が裏切られなくてほっと一安心。
キャラクターについては特に言及していないけれども、まあ詰まるところ、特に言及する必要がないということ。
興味のある人は是非、ご一読を。

あ、最後に思ったこと。
帯の煽り文句の「ダ・ヴィンチは名画に何を隠したのか」
隠したのは館長じゃないですか?
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by clhaclha | 2006-04-06 23:18 | 読書感想・書評